10代~20歳くらいの頃に聴いていた音楽(のみならず、感受性を刺激するもの全般)は特別で、意識の深いところにはっきりと焼き付く。好き嫌いはもはや関係なく、脳内で鳴り続けるのだ。
ぼくの意識の深いところで今も鳴っている音楽のひとつが、バンプオブチキンである。
BUMPとの出会い
テレビ嫌いで、ライブでもお客さんに悪態をつき、ちゃちなポップスと一緒にするなというアティチュード、ラディカルな音を鳴らす彼らが好きだった。
ぼくがバンプを一生懸命に聴いていたのは、アルバムでいうと『jupiter』くらいの頃だ。
当時は中2、人生で初めてMDの聴けるコンポを入手した時期である。
ぼくはレンタルショップへ行き(CDを買う財力はなかった)、なんとなく知っていたり目についたりしたアルバムをどんどん借りた。
その中にあったのが『jupiter』である。
『天体観測』『ハルジオン』『ダイヤモンド』のシングルが収められている。
その頃のバンプは『天体観測』ならみんな知っているが、他の曲はさっぱり知名度がない、そんなバンドだった。
スペースシャワーTVを観られる環境だったし、ぼくも『天体観測』くらいは知っていた。みんなはなぜこの曲だけ知っていたのだろう? 地上波の露出なんかなかったと思うけれど。
さておき、『天体観測』より『ハルジオン』が刺さった。
聴いたことのないメロディーだと思った。まあ、中学生時点の音楽体験なんてたかが知れているから、聴いたことのないものなんていくらでもあったわけだけれど、とにかく、そう感じた。
不穏でいて、忘れられなくなる。
近い時期で言うとスピッツの『さわって かわって』のAメロを聴いた時にも同じ感触がした。
そこからバンプを掘り下げ始めた。
隠しトラック
CDを買えないのが歯がゆいが(お金もないし、そもそも今では考えられないが近所のレコ屋にバンプは並んでいなかった)、レンタルショップはぼくの味方だった。
『FLAME VEIN』『THE LIVING DEAD』というインディー時代のアルバムを借り、毎日聴いていた。
そうそう、バンプのCDは隠しトラックがいつもあって、例えば1〜12曲目までは普通にクレジットされた曲が流れるのだが、13〜50に3秒ずつの空白のトラックがあって51で急にわけのわからない曲が始まったりする。
どのアルバムだったか……「タカハシヒロアキ タカハシヒロアキ」と繰り返し続ける(ビートルズのレボリューションNo.9のような)曲と言っていいのかわからないような曲が隠しトラックとして入っていて、MDを聴きながらビビった覚えがある。
母に「これ、何? 呪われてるの?」と確認し、母は「知らんがな」みたいな反応をしていた。
当時は今みたいに容易にググったりできないから本当に謎で、しばらくビビり続けていたし、故障だと思ってたくさんの空白のトラックと隠しトラックをMDから削除した。
今ちゃんと調べたら正しい歌詞も出てきた。
高橋ひろあき 増川ひろあき
二人のひろあき 二人はなかよし
曲名は『H・I・R・O・W・A・K・I』
BUMPとの離別
なんだかんだで、ライブにも結構行った。
ニンジャポーキン、ペガサスユー、そして『sailing day』がワンピースの映画主題歌になった際試写会とミニライブがセットになったものに当選したりもした。
その頃もまだバンプの知名度は大したことはなかった。
『天体観測』の人たち、から『天体観測』とワンピースの映画の人たち、になった程度。
『車輪の唄』くらいから認知度が高まってきたように思う。
しかし、ぼくの中ではバンプ像がぼやけつつあった。
あくまでバンプはロックバンドだと思っていたのだが、ボーカル藤原基央は「最終的には童謡が作りたい」と言い、ギターがガンガン鳴っているような曲は減りつつあった。
『車輪の唄』や『プラネタリウム』など。
アルバム『ユグドラシル』を買って、「やはりバンプはロックをやる気はもうないのだろう」とバンプ熱が薄まり、聴かなくなった。
深夜のラジオまで毎週録音していたのに(MD、まだどこかにあるのかな。貴重な音源だと思うけれど)。
国民的バンドへの成長
ラジオぐらいしか公共の電波に現れなかったバンプが、いつしか余裕で民放で演奏するようになった。
ライブは生じゃないと意味がない、死ぬ気でチケットを取れ、と言っていたバンプが、ライブ映像作品を発売した。
そんなこんなで、いつの間にか知らない人はいない大御所バンドにのし上がっていた。
どんどん丸くなってるじゃねえか、初音ミクをフィーチャーした曲なんて書いてほしくなかった、なんて思いながらも、昔好きだったよしみでなんとなく常に動向は気になっていた。
まあこうなってくると「昔はよかった」的な痛い奴なのか。うーむ。
少し前に、バンプもサブスクに手を出した。
やはり時代の流れには彼らも逆らえないのだなあ……と思いつつ、Spotifyでシャッフル再生してみる。
昔は「バンプは死んだ」と思っていた類の曲も、意外と今聴いてみるとすんなり聴けて、悪くないなと思えた。
やっぱりインディーの頃のが好きではあるんだけど。
どんなバンドでも初期の作品って訳のわからない焦燥感、前のめりな雰囲気があって、それがマジックを起こしがちだ。
とはいえ近年の作品、『aurora arc』なんかも(グラフィックアーティストのVerdyがアートワークを担当したということで気になっていた)、やっぱりロックではなかったけれど、音楽としては優れていると思った。
ぼくみたいに「ロックバンドであれ」という意見のファン(今のぼくをファンと呼ぶのかは置いておいて)は、もはや多くないだろうし、きっとこれでいいのだ。
そんなジャンルどうこうよりも、シンプルにいい曲を書いて演奏する、という音楽家の一番帰結するべきところにバンプは向かっているのかもしれない。
久々に聴いたバンプは、懐かしくて、新しくて、エッジィだが優しかった。
BUMPのファッションの変化
ぼくが好きだった頃のバンプのファッションリーダーと言えば藤原基央。
Nハリウッドとか古着とかを着てコンバースを履くみたいな、シンプルだけどセンスのいい感じ。
最近サンローランとかガンガン着てるの嫌だなあ!
露骨に金持ちになった感じ出てんなあ!
あと、チャマ(ベースの直井由文)が、どっかのタイミングからK-POPアイドルみたいな髪型と服装になってんのもなんか嫌。
うん。まあこれもね。
昔はよかった〜的な。
みんな垢抜けて、お洒落で格好よくなったと思う。
VICE MAGAZINEだっけな。なんかのフリーペーパーで、これは直接バンプ関係ないんだけれど、「今の君はルブタンなんか履いてとても素敵だけど、ぼくが好きだったのはダサいジャージを着ていた君だったんだ」みたいな文言があってね。
そんな気分だよ。
まとめ
ぼくが特に好きな曲は
『くだらない唄』『リリィ』『グロリアスレボリューション』『ベストピクチャー』『バイバイ、サンキュー』『乗車権』
あたり。
Google謹製のIMEがグロリアスレボリューションを普通に固有名詞として変換したことに驚きを隠せない。
『FLAME VEIN』から20周年て、そりゃ変わるに決まってらあな。