手ぶら男と荷物女について

椎名林檎

男は手ぶらであれ。

っていうのは割とよく聞く文言であり、ひとつの完成された美学であるような気がする。

しかしその出自に関してはいまいちよく分からない。
誰が言い出したのだろう。

「カバンを持っている男性は気持ちが悪い」

まずこれを読んでほしい(読まなくてもいい。重要なところだけピックアップする)。

賀来賢人(28)は、女子大生女子高生のアンケート結果で「カバンを持っている男性は気持ちが悪い」というものを見たらしく、手ぶらになった。

広瀬すず(19)、それに賛同。

・世の男性で手ぶら族は27.6%、対して女性は2.2%にとどまる。

これはなかなか面白いデータだ。
「カバンを持っている男性が気持ち悪い」と思う女性は、マジョリティではないかもしれないが、ある程度は確実に存在することになる。

手ぶらでありたい理由

ぼくも手ぶらであることに憧れる面はある。
順番的には、

荷物が少ない方が楽だし、疲れない
→コンビニに行く程度なら携帯と財布くらいで済むが、もう少し遠出するとなると目薬とかたばことか携帯灰皿とかこまごましたものが増える(なくてもいいがあったほうが便利なもの群)
→じゃあ、せめて両手が空くバッグにしよう

という思考をたどっている。
本当なら、必要ないものなんか持ち歩きたくないのである。

でも、移動のほとんどが自転車ないし電車であるために、例えばペットボトルの飲み物を買った際に、バッグがないと手で持っていなくてはいけない。
それが嫌なのだ。両手を空けておきたいのだ。
だから、道中に増えた荷物をしまう場所としてもバッグがある方がいい。

つまり、両手が空くバッグ、リュックやメッセンジャーバッグということになる。

本能が拒否している

クロロの御託
と、改めて動機を文字にしてみると、「かっこいいから」などのルックス的な側面は特に関係がないのだと気づく。
ぼくに限って言えば、荷物が少ない方が楽というシンプルなところからスタートしている。

なぜ女性は「カバンを持っている男は気持ちが悪い」と思うのか。
またそう思いながらもなぜ自身はカバンを持つのか。

ここに永遠に分かり合えない溝を感じる。

カブトムシはかっこいいけれどゴキブリは気持ち悪い。みたいな。
喧嘩すると男は理詰めで女は感情的で話は延々平行線。みたいな。

かっこいいカバン、目立つカバンを使っている人がいたら目がいくってことはある。
が、「あの人カバン持ってない! かっこいい!」で目線が動いたことがない。ないものを追う。哲学か?

スニーカーあたりならわかるよ。
「どんなの履いてるかな?」っていう興味が先行するケースはある。で、ダサいのを履いてたら減点。うんわかる。
でもカバンの「持っているか持っていないか」を正確に置き換えるなら、スニーカーだと「履いているか履いていないか」だから、ちょっと比較になっていない。

精神面の検討

精神と時の部屋
じゃあ見た目以外から考えてみよう。
精神面である。

ぼくの例ならば、

「荷物が少ない方が楽だ」→これに関しては荷物の多寡ではなく有無それ自体が問題になっているから関係がないだろう。

「荷物をしまう場所が欲しい」→これか……? 荷物はしまうな! 買ったものは手で持つか、その場で使い捨てろ! ってことか?

しかしあまり納得がいかない。行動を共にしている中で買い物をして荷物が増えたら、カバンの有無はともかく『手ぶら族』ではなくなってしまう。だったら、リュックのがましじゃねえの? 両手空いてる分。

ピンとくるロジックがみちびかれない。

もしかすると、精神面は関係がないのかもしれない。

金銭面の検討

札束
ここで一つ思い当たる。
芸能人は私服を着る機会が少ないという話についてだ。

スタイリストの衣装をテレビ局で着るから、家から着飾って出てくる必要がないということ。
さらに言えば、電車移動もしないし、自転車なんかもっと乗らないだろうし、人が運転し夏場でも冬場でも乗り込んだ瞬間から最適な温度に調整された車移動がメインだろうから、オーバースペックなダウンなども着ない。

要するに生活が潤うほど軽装になるという、風が吹けば桶屋が儲かるみたいなロジックだ。

極端といえばそれまでだが、自分の足で移動せずワンメーターでもタクシーに乗るような人種は、歩きやすいスニーカーなんて買わないのだ。

これは一概にむちゃくちゃ理論だとも思えず、カバンというのは財布や化粧品など生活感の象徴であるから、女性が嫌うのはそこなのではないかという気がしてくる。
むしろそれしかないんじゃないか。

クーポンを使う男性はみみっちい、とほとんど同じ意見である。
男の立場から言うと「すっぴんを見たくない」あたりと同じか。

まとめ

これはほとんど机上の空論だが、それなりに説得力を持っているのではないか、と手前味噌ながら思う。

カバン男を嫌う女性がみんなおなじ思考ではないだろうが、こんなことを考えている人も中にはいるだろう。
恐ろしいのは、きっとその人はこんな風に筋道があるわけではなく、本能でオスとして強い人間を求めている結果そうなっているのではないかということである。
無意識下で、生活感を嫌っている。

広瀬すずが言っていると思うと、さらに説得力が増すのではないだろうか?