ファイト・クラブについて

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警告

もし、いまこれを読んでいるなら、この警告は君に宛てたものだ。
役立たずな高画質の画面で全ての文字を読んでも、君の人生はさらに無駄になるだけだ。他にすることはないのか?
いまの瞬間をより良く過ごす方法を考えられないほど、君の人生は空っぽなのか?それとも、君が尊敬と信頼を抱く権威に感銘を?君は読めと言われたものをすべて読むのか?考えろと言われたことをすべて考えるのか?買えと言われたものをすべて買うのか?
アパートを出ろ。異性に会え。過度の買い物を止めろ。仕事を辞めろ。戦いを始めろ。生きていることを証明しろ。もし君が自分の存在を主張しないなら、君は統計データのひとつになる。
警告は以上だ。

これは映画ファイト・クラブの中に挿入される文言のひとつだ。

ファイト・クラブはアクション映画ではない

ファイト・クラブはぼくの最も好きな映画であり、ブラッド・ピットの演じるタイラー・ダーデンはぼくの人格形成にかなり影響しているのは間違いない。

はっきり言ってファイト・クラブの面白さがわからない奴とは話すことなんかない。というのは言い過ぎかもしれないが、割とそう思っている。

これを読んでまだ観ていない人がファイト・クラブに興味を持ってくれたなら嬉しいが、あれもう15年以上前の映画だから。
まだ観てないなら、観てない人が悪い。
タイトルから単なる殴り合いのアクション映画を想像している? それこそが君がブランドに踊らされたライフスタイルの奴隷だということの証明だ。

ってことでネタバレ上等でファイト・クラブについて語るから、嫌だというならブラウザを閉じろ。 アパートを出ろ。異性に会え。過度の買い物を止めろ。仕事を辞めろ。戦いを始めろ。生きていることを証明しろ。もし君が自分の存在を主張しないなら、君は統計データのひとつになる。
警告は以上だ。

タイラー・ダーデンの魅力

タイラーダーデン

「職業がなんだ?財産なんて関係ない。車も関係ない。 財布の中身もそのクソッタレなブランドも関係無い。 お前らは歌って踊るだけのこの世のクズだ」

タイラーの台詞で最も印象的なもの。
端的に言えばこれがファイト・クラブのテーマだ。

いつ見ても美しい引き締まった身体でタイラーは言った。

人間なんていくら金持ちになろうがブランドで着飾ろうがやがては死ぬ。
本当に大切なのは今生きていることだと。

ファイト・クラブの会員たちは物質主義、過剰消費文明にファックと言い、自らの肉体をいじめ、巨大資本に爆弾を設置する。
過激派と言ってしまえばそれまでだが、彼らには美学があり、自らの価値観で生きている。

カルバンクラインの下着のモデル、あれが本当の男か?ワークアウトは自慰行為だ。それよりも自己破壊を」

この台詞は中盤で登場するが、タイラーと主人公が出会いルーの酒場から出たあとに初めてのファイトをするシーンにも象徴されている。

「俺を力いっぱい殴ってくれ」

タイラーが要求したのは殴られること。
重要なのは殴ることではなく殴られることだったのだ。

自らの痛みこそがタイラーつまり主人公が求めていたものだった。

ブランドもののシャツ、タイ、家具を揃え、いい部屋に住み、しかし閉塞感から不眠症になっていた主人公は、意図せぬ殴り合いのあとこう言う。

「またやろう」

社会でただただ歯車として生きていくことを強いられた男たちは、ただただ人生の残り時間を消費していくだけだった。
が、ひとたびファイト・クラブに入会すれば新しい価値観の中で生きられたのだ。
殴られることで自らが今生きていることを知る。折れる歯、滴る血が生命の証。
相手を殴ることで自分のタフさを知る。躍動する自分の肢体が生命の証。
何も解決しない殴り合い。
それにのめり込む男たちは加速度的に増えていく。

タイラーは主人公の思い描く、タフでクレバー、女にモテて自由に生きる理想の男性像だった。
しかしそこに追いつこうとする自分と自分の理想の乖離に段々とついていけなくなる。

破滅型スター

最終的に主人公は、理想の自分の幻影、タイラーに勝つために自らに向け重の引き金を引く。
ライフスタイルの奴隷であった主人公の哀れな結末とも言えるが、タイラーが消えたのち、頭からダラダラと血を流した主人公は妙に清々しい顔をしている。
流れ始めるPixiesのWhere Is My Mind?、自ら仕掛けた爆弾で崩れ落ちていくクレジットカード会社のビル群が倒壊していくのを眺めながら、残り数分か数十分かしかない命の中、映画は終わる。

これが自分の理想を自分が越えていくハッピーエンドなのか、いやいや死ぬんだからバッドエンドなのか、それははっきりとはわからない。
ただ、愛する女性と手を繋いでビルの倒壊を眺めるシーンが、美しいということは分かる。

タイラーは正義ではない。
かといって悪とも言えない。

現代社会を生きる上でタイラーのように突き抜けて自分の価値観だけで生きていくことは難しい。
誰の心の中にもタイラーはいて、それに気づくか気づかないかなのだ。

おまえは自分がしたいことを本当にしているか?

ということ。

明日死ぬとしたら後悔はないか?

ということ。

主人公だけでなく、あらゆる男が憧れる破天荒なヒーロー(……とは言えないかもしれない)の姿が、ファイト・クラブにはある。

ガーデニングなんてタイタニックと一緒に沈めばいい!
あんたは生きるために何を選ぶ?