アラサー世代の青春ファッションについて 前編
アラサーの青春時代。
それは、ファッションにおいて谷間の、もしくはカオスの時代だと思っている。
アフター裏原ムーブメント。
その中でさまざまなスタイルが表に出てきて、なんでもありの2000年代。
この記事がやたらと面白かったので、今回ぼくも対談を開催した所存である。
メンバー紹介
(L→R)
ハル
1989年生まれ。ギリギリ平成だけど早生まれなので年度的には昭和63年世代。
GSSMBOYの逆襲ライター。
HAL
1989年生まれ。ギリギリ平成だけど早生まれなので年度的には昭和63年世代。
THE RETURN OF GSSMBOYライター。
イントロダクション
ハル(以下ハ):よろしくお願いします。今日はわざわざ、ありがとうございます。
HAL(以下H):よろしくお願いします。いつも読んでますよ。GSSMBOYの逆襲。
ハ:いや、お恥ずかしい。ぼくも読んでますよ。THE RETURN OF GSSMBOY。
H:これ、話先に進みませんね(笑)
ハ:(笑)というわけで、アラサー世代の青春期ファッションを振り返ろう、ってことなんですけど。
H:はい。色々ありますよね、語りたい話題。こんなの用意したんでちょこちょこ覗きつつ。
ハ:うわっ。懐かしすぎる(笑)具体的に、ファッションに目覚めたのっていつぐらいですか?
H:目覚めたって言っていいか分からないですけど、見た目を気にしだしたのは中2とか、それくらいだと思いますね。ワックスとか買ってみたり。
ハ:ああ(笑)全然上手くつけられなくて。
H:そうです(笑)こう、手のひらに伸ばして髪になじませる、っていうテクを知らなくて、指にちょんちょんってつけて。んで、毛先にだけつまんでねじねじするっていう(笑)
ハ:めちゃくちゃ分かります(笑)ぼく、野球部だったんで、坊主だったんですよ。だから、そもそも、ワックスつけるほどの長さでもないし、全然格好良くならなくて。
ファッションの目覚め
H:その頃服を買いに行くって言っても、近所の自転車で行けるような範囲にあるお店ですよ。ジーンズショップっていうのかな。今あんまりこういうタイプのお店ないと思うんですけど。ジーンズメイトとかみたいなチェーン店でもなく、セレクトショップっていうほど高級じゃなく、なんというか……ジーンズショップとしか言いようのない感じの。
ハ:ありましたねーそういう店。当時世間で流行ってたのってどんな服でしょうか。
H:ぶっちゃけ、よくわからなかったですね。世間で流行っていることというか、自分の身の回りのことしかわからなかったです。
ハ:その頃はファッション誌なんか読まなかった?
H:読んでなかったです。意図的に、っていうわけではなくて、そもそもファッション誌という存在すら知らなかったと思う。当時はもう、仲間内でイケてるかどうかっていう、それしかなかった。
ハ:ああ、その感じですよね。今その感覚って結構難しい。SNSとか、無意識でももう他人の目を意識せざるをえない世の中だと思います。年齢に関係なく。
H:ですね。根本的には、仲間内でイケてるかどうか、今でもこれでいいと思ってます。知らない人にお洒落だとか格好いいとか思われないよりは思われたほうがいいですけど、100人に好かれるより1人に愛されたいっていうか(笑)
ハ:でも100人に愛されたらベストじゃないですか?(笑)
二人:(笑)
雑多な時代
H:当時ジーンズショップに置いてたのは、だぶだぶのサイズ感の服ばっかりで。今もうかなり減ったと思うんですけど、原宿の竹下通りに黒人のキャッチみたいなの立ってたじゃないですか。ああいう人が売ってそうな服が、ジーンズショップに並んでました。
ハ:やっぱり、スタートはワルぶりたいみたいなとこですかね。ぼくも、ベルトがないと脱げちゃいそうなジーンズ履いて。ワンピースみたいなサイズのTシャツ着てました。
H:本格的にちゃんとしたところで服買ったのは高校に入ってからですね。
ハ:ぼくも、原宿に行って、竹下通りを最後まで歩いて、明治通りを渡ったのは高校です。それまでは竹下通りうろうろして帰ってた(笑)
H:サカゼンとかゼンモール*1とか。原宿行く必要ねえよっていう(笑)
ハ:たぶんあるあるですね。原宿で服を買ったっていうフレーズが重要(笑)で、だんだんファッション誌とか読むようになるんですけど。
H:今よりずいぶん種類が多かったですね。メンズノンノとかポパイはいわずもがな。今なくなっちゃったのだとチョキチョキとかビダンとかクールトランスとかBoonとかTUNEとか……
ハ:うわー久々に聞いた、ビダン(笑)
H:廃刊になったのが、今は紙媒体が売れなくなってきているっていう理由以外にも、ファッション自体同じ方向にある程度収束しているからだと思うんですよね。逆に当時が枝分かれしすぎていたのかもしれないけど。
ハ:分かります。ギャル男、お兄、おしゃれキング*2、ドメブラ、裏原、古着、ハイファッション、なんかもう何でもありでした。
ガクトのコート
H:ハルさんはどんな感じの服を着ていましたか?
ハ:ぼくは最初、ギャル男崩れというか。109メンズ館にあったようなごりごりのギャル男ブランド……ヴァンキッシュとかバッファローボブズみたいなのではなくて。崩れ。
H:派手な柄のシャツとか、ブーツカットの細いジーンズとか。
ハ:はい。そういうテイストが、ちょっと緩和されてマルイに入ってくるんですよ。マルイに入ってるブランドは、なんか全部似たような感じで。薄めたギャル男ブランド。あとバイト先の先輩がそういうの好きで、なんかファーのついた服とかもらってました。
H:あー。ファー(笑)
ハ:で、中学生時代の友達と久々に会うって時にファーつきのコート着ていったら「ガクト?」って言われて(笑)ぼく地元は埼玉で高校は都内の私立だったんですけど、そこで結構地元の奴と感覚がズレたんです。地元の高校通ってる奴は、やっぱ田舎なんで、ワルっぽいほうが格好いいっていう中学時代の価値観がぶれてないんですよ。一緒にだぶだぶの服着てキャップ斜めに被ってたぼくが、ガクトのコート着てきたんで、「いやお前何それ」って感じになって(笑)
H:切ない話なんですかねこれ(笑)
ハ:(笑)で、なんかそのときに若干自分の中で線引きした気がします。所属してるコミュニティでファッションも変わるし、自分と感覚が似ている奴もいれば合わないやつもいるんだな、みたいな。まあそうは言っても、ガクトのコートは変だったとは思うんですけど(笑)
H:一緒に服買いに行ける友達って仲良くなりますよね。いや、友達同士だから趣味が似てくるのかな。ぼくは古着、めちゃめちゃ買い漁りましたね。今の感覚で言うと、Supreme着てれば「おっ」てなる、みたいな感じで。古着、っていう響き自体が格好いいものだった。そして安かったですし。ユニクロ行くくらいなら古着で使えるもの探そうって思ってました。
ハ:ユニクロも今みたいに洗練されてなかったですね。当時は、もっと野暮ったくって。ユニクロってばれたくないって思ってた。
H:ここ10年くらいでずいぶん変わりましたね。
古着ブーム
ハ:古着といえば、古着屋本舗とかWE GOとか、めっちゃ行ってたんですけど。今の若い子ってWE GOが古着屋だったこと知ってるのかな。
H:今って古着扱ってるんですかね?(ググる)……なんか、よくわかんねえな(笑)あるっちゃある、みたいな……
ハ:おっさんには今もう縁のない場所ですよね。店のテンションがもう無理(笑)
ハ:あー。やっぱ今古着っていう物自体そんなに、なんでしょうね。安くていい新品がたくさんあるから。フォーエヴァー21とかH&Mがくるのって、もっと後でしたから。
H:そうなんですよね。ZARAとかTOPMAN*4はあったけど。ファストファッションにしては高いし、微妙な価格帯でした。ぼく、古着が好きというか、安いからっていうのが大きかったと思います。アディダスとか、ラルフローレンとか、よく置いてあったんですよ。そういうのが格安で買えるのがよかったんであって、きれいで安くて格好いい新品があるならそっち買ってた。
ハ:レギュラーの501とか390円で買えましたからね。歴史的には何の価値もないですけど。でも390円ですし。
H:D.A.R.E.のTシャツとか買ったなー。
ハ:だんだんマルイに行かなくなって、表参道とか行くようになりましたと。
H:当時はドメブラも、古着っぽい新品みたいなのを推してましたね。
ハ:Nハリウッドとか、インパクティスケリーとか。
H:そうそう。で、ストリートスナップの中心はロン毛に髭。今で言う刈り上げてオールバックみたいな感じで。そればっかり。
ハ:でもぼくも、高校で文句言われない程度に、野球部の坊主の鬱憤を晴らすかのごとく髪伸ばしました(笑)帰宅部になったんで(笑)
H:(笑)で、当時のマストアイテムっていうと、その古着ブームの延長にあって、Nハリのパーカとか517とかチャックテイラー*5とか……
ハ:懐かしい!買いました(笑)
H:同じくです(笑)考えてみると、その辺からちょっと価値観が変わったのかもしれないですね。90年代ファッションを振り返る、で出ていた「着こなしとかよりもステータスとしてのファッション」みたいなのではなくて。要するに、ロゴとかキャラクターがどーんと前に出て「俺はこれ着てるぜ」みたいなアピールより、ヒールパッチがよく見ると違うとか、ディテール的なところに注目するようになった。
ハ:古着を通過してるかしてないか、ってのはあるかもしれないですね。ファッションの感覚の違い。
H:Nハリ517でなんとなくリーバイスの型番に興味出てきたり。
ハ:あー、ブーツカットが結構流行ってたな。Nハリのはシューカットっていうか、ほとんどフレアが分からないような感じなんだけど。646みたいな思いっきりヒッピーみたいなやつをオーバーサイズで穿いたり。ギャル男が穿いてた感じとまた違うんですよね。緩い感じで、フレアをきっちり出さないで穿くっていうか。
H:ああいうのって誰が発明してたんですかね。
ハ:やっぱストリートスナップですかね。ミスターハリウッドに初めて行った時、あそこ古着も置いてて。古着にタグくっつけて売ってるのが割と安くて、でもNハリの商品なのか古着なのかわかんなくて混乱しました(笑)この頃とか、メンズノンノですらミスターハリウッドとNハリウッドを混同してる。*6
エディ・スリマンとモバオク
H:17歳くらいのときだと思うんですけど、エディ・スリマン*7という存在を知って。世の中の服がどんどん細くなっていった。そのあとApril77とかチープマンデイとか、スキニージーンズ専売店みたいなのがいっぱい出てきて。
ハ:ディオールオムは衝撃でしたね。やっぱり。
H:理解できてないところも多かったんですけど。スカのシーズンとか、腰くらいまで開いてるノースリーブとかあって。これ。よく見えないけどノースリーブの袖のところが、腰まで開いてるんですよ。
ハ:コレクションブランドは、普段着には向かないと思ったのを覚えてます(笑)
H:ジェイクとか、アンダーマイカーとか、憧れました。結局買ったことないけど。
ハ:ガキには買えないですよね。ストリートスナップで10代の子が全身ディオールオムだったりとかしたら、「こいつどうやって買ってるんだろう」って疑問に思った(笑)
H:ヤフオクとかモバオクとか、やってました?
ハ:あー! やってました。いらない服売ってました。今で言うメルカリなんですかね。今も昔も民度は酷そう(笑)
H:メルカリは酷いらしいですね(笑)
ハ:でも多分、今のがまともな気がしますよ、システム的には。モバオクの時代は、みんなガラケーですから、商品写真とかもうゴミみたいなクオリティなんですよ。状態の良し悪しなんか全然分からない。サイズ感とかも「数センチの誤差はお許しください。ノークレームノーリターンで」って書いとけばもう多少はごまかし効くし、とりあえず細身なら売れるって時代でしたからね。
H:ごまかしました?(笑)
ハ:まあ多少は(笑)送ると面倒くさいんで定期圏内で手渡しできるなら手渡し、みたいなのやってたんですけど。オレンジデイズで使われてたヘッドポーター*8のシャチが人気あって、ぼく持ってたんです。そのショルダーバッグを売ろうと思って手渡しすることになって、4000円くらいで売ったのかな。でも駅で会ったらやってきた小僧が「3500円しか持ってない」とか言い出すんですよ(笑)こっちも持って帰ってもしょうがないし「じゃあいいっすよもう」みたいな投げやりな感じで売りました(笑)
H:なんか時代を感じるなあそれ(笑)ブランド古着ってありましたもんね。全身ディオールオムのスナップ小僧とかは、そういうところで買ってたのかな。ディオールオムのジーンズもスペック細かかったですね。裾幅17cmとか19cmとか。
ハ:くしゃくしゃにたるませて穿いて。
H:腰まで開いたノースリーブはわかんなかったけど、このスタイルは今見ても格好いいです。
ハ:A.P.C.の裾切らない組は、影響されてるかと思います。いや、むちゃくちゃ格好いいなこれ。
ギャル男の行き先
H:そういう風に、モードとか古着とかストリートとか、渾然一体って感じでしたね。世間が。
ハ:どっかのお店で聞いたんですけど、当時ギャル男ブランド買ってた層が一時期行く先なくしたらしいですよ。ぼんぼん倒産するし、世の中のブームは終わるしで。
H:あー。今ヴァンキッシュとかキレイ目な感じですよね。生き残ってますけど。ストリートにちょっと昔のテイスト残してる感じ。ジーンズとか結構こだわってるように見えます。
ハ:そうそう。そうやって形を上手く時代にフィットさせてるブランドもあるんだけど、多分当時ってお金持ってたヤンキー上がりのギャル男とかが勢いでブランド立ち上げたりとかしてたと思うんですよ(笑)でも商才はなくて消えちゃって。で、そういうところで服を買ってた層がロンハーマンとかに流れてると思うんですよね。
H:昔で言うドルチェ&ガッバーナとかみたいな感じですね。ブランド側がイメージしている購買層とかけ離れたところでコマーシャルされてしまうっていう。
ハ:で、その影響で、もっと下の世代のちょっとイキりたい奴が真似して……
H:ブランドイメージを低下させると(笑)
ハ:なんかつまんないんですよね、それ。
H:つまらないというと?
ハ:こう、雑多な時代にあったギャル男の選択肢としてのドルガバとかD&Gって、発明というか発見というか。本来のブランドイメージとは全然違うじゃないですか? でも誰かが仕掛けたのかそれともそれもスナップの延長なのか、わかんないけど、どこからかそういう落とし込み方が生まれた。ロンハーマンはもうなんか最初から違うんですよね……ブランドイメージどうこうじゃなくて、流行に興味あるけど、お金もあるけど、センスはない、みたいな人の吹き溜まりみたいに見えて(笑)お店が扱ってるものは好きなんですけど、フォロワーがつまらない。
H:毒が出てきました(笑)
後編に続く…