ECサイトではなく店舗に足を運ぶ理由について

zozosuit

ZOZOSUIT。
身体の採寸を正確に自宅で行うことができ、ネットショッピングでのサイズ選びにももう迷わない!
そんな時代がやってきた。

それでも、ECサイト、オンラインショップではなく、実店舗に行く理由とは何なのか。
果たして、それは存在するのか。

価格の差を実感するためには

アディダスのスタンスミス
コンバースのオールスター、アディダスのスタンスミス。
とりあえず持ってて損はないとか、スニーカーここから抑えとけとか、そんな文脈で語られることの多い鉄板スニーカー。

ただ、安易にこれらを購入したら素人と差をつけられるだなんて、そういうものでもなくなってきている(そもそもこういう癖のない普遍的なスニーカーは、アイテムそのものよりトータルコーディネートの中で個性が生まれるものだとは思うが)。

たとえばオールスターは、現在国内で手軽に手に入るものはほぼ全てコンバースジャパンのものと言える。
そしてアメリカのコンバースコンバースジャパンは、なんの提携もなく、まるで別の会社
オールスターの上位互換としてコンバースアディクト、USAのCT70などのチャックテイラーがある。


スタンスミスも大まかに分けて2種類ある。
1万円以下の普及型モデルと、ヴィンテージを意識したやや高価なフラッグシップモデルだ。

ぱっと見は大差ないけれど、実は違いがたくさんある。神は細部に宿る。
そんな細かな積み重ねがファッション。

オンラインショップやブロガーがどれだけ高画質な写真でその差異を訴えたところで、結局実物を見るのが一番早い
逆に言えば、本物を知らなければ、それに付随する価格の差に身銭を切ろうとは思わない。

少なくとも、ぼくは。

Supremeに求められるもの

Supremeの行列
服の値段はざっくり分けてふたつのベクトルがある。
商品の品質に比例するもの、デザインやブランド価値に比例するもの。

例えば無名のファクトリーブランドだけど高品質なカシミヤ混のニットを作っているなんてのは前者で、ふつうのTシャツだけどあのアーティストのグラフィックが乗っているなんてのは後者。

前者は物を見定めないと値段に納得することが出来ない。
けれど、後者の場合は、別に実店舗に訪れなくても事足りてしまう気はする。

例えばSupremeとかがそれにあたる。

恣意的に言うならば、ストリート系ブランドの大半はクオリティよりも希少価値やアイコニックなデザインを売りにしている。
だからファンからしたら商品を手に入れるところがある種ゴールなのだ。
行列に並ぶ人たちは、商品を吟味しに行くのではなく、ネットの情報で既に購入を決めている。

これはノームコア系譜のシンプルファッションとセレブリティ系譜のハイストリートファッションのスタイルウォーズか。

インターネットは裏原ブランドを殺す

realmad hectic
15年くらい前はまた事情が違った。
ネットがここまで普及していなかった。

だから、ネットで得られるわずかな情報や画質の荒い写真を見て、逆に実際にこの目で確認しなくては! という発想になったわけだ。
今と真逆である。

店舗前に並びが出来たり、細々とした情報をいち早くキャッチきたり、そのへんは変わっていない。
が、購入する容易さ(ここでいう容易さとは入手が難しいかどうかではなく、入手までの経緯が多いか少ないか)が変わってしまった。

だからストリート系ブランドは大体廃れた。
昔ながらの方法が今でも通用している稀有な例がSupremeで、その他の裏原系ブランドはスタイルを変更するか消えるかを求められた。

そして大体消えてしまった。

店舗に足を運ぶ理由

実店舗を訪れる理由は、結局なんなのだろう。

店員とのコミュニケーション悪い例

ライトオンのロゴ
リーバイスMADE IN THE USAシリーズなるものが発売された。
間もなく閉鎖されるコーンミルズのホワイトオーク工場製の生地を使い、アメリカで縫製されている。

LVCなら3万円、これはまさかのアンダー2万円

何故かこのシリーズは現在Right-Onでしか扱われていない(先行なのか限定なのかよく分からない)。
という訳でRight-Onを訪れる。

店員(以下店)「あ、これ、アメリカ製で最近入ってきたやつなんですよ」

ハル(以下ハ)「へえ~そうなんですか」

店「生地が普通のと違って、セルビッジ(ここで裾を折り返す)というものがついていて。コーンデニムという生地なんです」

ハ「ああ……セルビッジ……(つーか今俺コーンデニムの501CT穿いてるけど……まあコーンデニムに気づけとは言わないよ流石に。でもロールアップしてんじゃん? 耳見えてんじゃん? セルビッジの説明とかどうなのよ?)」

店「これは頑丈なんで、一生物と言える、いい生地です」

ハ「……ほお~(ま、一生穿けるジーンズなんかないけどね)」

店「それで、穿いているうちに段々と色落ちしてきますから、自分だけのジーンズになってくるんですよね」

ハ「(……お前がそういう経験をしてないからこそ、1年も穿いてるコーンデニムのジーンズを目の前にスルー出来るんだろうけどな)すごいですねえ」

店「なんか、好みの形とかありますか?」

ハ「ある程度細めで、テイパードがかかってる、股上深いやつが好きですね」

店「細めか~(隣にある501スキニーロングデイを見る)501は股上浅いから違いますね……」

ハ「気になるのあったら声かけるんで(501を股上浅いって、こいつ売り場に出しちゃだめだろもう)」

購入に至らなかったのは単純に商品がそこまで惹かれるものではなかったから、というのもある。
が、明らかにこのレベルの店員が売り場にいることはマイナスだと言っていいだろう。もう行きたくないし話したくない。

Right-Onがどこを目指しているのかは知らない。
が、あれでジーンズに詳しくないお客さんから適当にノルマ上げられたらそれでいい、というような方針だとしたらもうゴミクズ。

店員とのコミュニケーションいい例

ユナイテッドアローズのロゴ
ユナイテッドアローズで財布を見ていて、なんとなく小物のコーナーをうろうろしていた。
一角にはクロムハーツがずらりと並べられている。はて、クロムハーツがこんなに長く愛されてる理由は何かしらん。

店員登場。

Right-Onほど直近の出来事ではないから文字におこせるほど記憶が鮮明ではないが、大して興味のなかったぼくに「クロムハーツ、ちょっと面白いな」と思わせる話をしてくれた。

オンリーショップのディスプレイの話。財布をリペアする際オリジナルのカスタムを提案してくれる話。上司がヘインズのTシャツにLVCの501にTIMEXの時計でアクセサリーはクロムハーツの話。などなど。

信頼出来ると感じたし、売る売らないの前に好きなものについて語っているなと思えた。
好きなものについて語るというのは、実は意外と難しい。
ブログのように一方通行のメディアではなく、会話だと好きなものについて語る際、相手の話が耳に入らなくなる人というのは一定数いる(ぼくはこれについてアニメ好きに若干偏見を持っている)。

その店員さんは会話のスキル、商品知識、どちらも非常に満足できるレベルだった。

これがネットでは得られない経験というものだ。

まとめ

遅かれ早かれ、アパレル業界は縮小していくだろう。
裏原系ブランドが消えていったのと同じように。

実際に店舗を構えて商売するというのはどういうことか、という意識のないブランドやセレクトショップはゆっくりと死んでゆく。

面白い商品ラインナップや、洒落た外装内装、確かにそれも大事だ。
が、オンラインショップと一番の差は人と関わるかどうか。
これをもう一度、アパレルの人間には考えてほしい。