Arctic Monkeysについて
ストロークスのようなガレージリバイバルだったり、ジェイク・バグのようなカントリー、フォークだったり、昔懐かしいものが今の若い世代には新しく聴こえたりするものの、新しい音楽と言うのはなかなか出てこない。
そんな現代、ロックを新しいものにし続ける稀有な存在がいる。
Arctic Monkeysのメンバー
L→R
アレックス・ターナー:Vo,Gt
ジェイミー・クック:Gt
ニック・オマリー:Ba
マット・ヘルダース:Dr
オリジナルメンバーではベースがアンディ・ニコルソンだが、1stアルバムが出てからのツアーは疲労により不参加、そのまま脱退し、その際にサポートメンバーだったニックがそのまま正式メンバーになっている。
アルバムレビュー
1st『Whatever People Say I Am, That's What I'm Not』
デモ音源がネットに公開され、超バズってそのままドミノ・レコーズ(フランツ・フェルディナンドやザ・キルズが所属するレーベル)と契約に至るという絵に描いたようなサクセスストーリーだ。
イギリスらしいパンキッシュな初期衝動のままに鳴らすバンドサウンドに、アレックスの抒情的な歌詞とメロディがマッチした傑作となった。
2nd『Favourite Worst Nightmare』
しかし、アークティック・モンキーズはそうならなかった。
1stは確かに素晴らしい出来で、どの曲もキャッチー。しかし、一過性の人気で終わるような空気も感じていた。ストロークスやホワイト・ストライプスよりも遅れて出てきたガレージ系のバンドだったというのもある。
果たしてこの後どうなるのか? 多くの人がそう思っていた。
この1曲だけでアークティック・モンキーズがハイプに終わらないバンドだということを証明した。
ロックの名曲とは、好き嫌い問わず呪術的に記憶に刻み込んで叩き込んで焼き付かせるものである。Brianstormがまさにそれだ。
この曲以外も1stの焼き直しではなく昇華で、進化を感じさせた。
3rd『Humbug』
ハイプがロックキッズを熱狂させるものだとすれば、このアルバムで彼らの音楽がキッズのものだけにとどまるものではないと決定づける。
この作品までくると、ロック好きの少年たちが勢いでやっている曲とは言えない。
バンドのグルーヴは複雑になり、独自のアンサンブルを作り出している。
疾走感は薄れどっかりと重心を落としたアプローチだ。どの曲もアークティック節として違和感がないのに、確実に今までとは違ったヘヴィさを伴っている。
その上でどこかに感じるポップさや耳心地のよさは失っていない。
アルバムごとに着実に成長と変化を続けている。
4th『Suck It and See』
前作のダークでヘヴィな曲調はいったん気配を消し(初期の楽曲でとにかく騒ぎたいファンには、いわゆる『聴かせるロック』みたいなものが不評だったらしいが、その反響をアークティック・モンキーズが真に受けたかは怪しい)、オールディーズのような優しい感触のポップソングが並ぶ。
変化を恐れず、その都度の彼らのベストを構築した結果がこうなのだろう。
フロントマンのアレックスはソロでもこういうテイストの曲をやっているが、Suck It And Seeがあくまでアークティック・モンキーズのアルバムであるのは、やはりポップソングである前にロックであるという自負によるものだ。
ドリーミーで爽やかな曲でも、それをあくまでロックバンドが鳴らすという気概がある。
恣意的な言い方をすると今までのアルバムよりも地味だ。
地味だが、アークティック・モンキーズというバンドの基礎体力を確認できる作品でもあった。
5th『AM』
まずバンドのルックスの変化に驚く。
アレックスはデビュー当時もっさりヘアの思春期抜け出せないボーイだったのに、ついに50年代的なリーゼントにキメてきた。
なんというか、今までは等身大のロックバンドだったのが、このあたりから風格も備わって、孤高の存在に変わっていった気がする。
Tシャツに革ジャンじゃなくて、サンローランなんかのスーツも衣装に多くなったしね。
サウンド面では、ひとつの到達点といえるところまできた。
ヒップホップの延長にあるビートと、アークティック・モンキーズが培ってきたブリティッシュなロックンロールが混ざり合った結果、初期のサウンドはほとんど面影がなくなった。
3拍子の遊び、かき鳴らすギターといった要素はもはやなく、シンプルで、ソリッドで、ハードで、スロー。
ドレイクのカバーまでする。
ヒップホップやR&Bがトレンドの時代背景も合わせ、その上でロックを鳴らす新しいスタイルだ。ロックバンドが黒人音楽に歩み寄る場合、歌を黒人に寄せていく(たとえばスモール・フェイセスとかMC5とか)か、アンサンブルをファンクやソウルに寄せるか(レッチリとかリヴィング・カラーとか)か、そういったケースは過去にもあった。
アークティック・モンキーズはロックなのだが、ただロックと一口に括るにはヒップホップライクなビートが主張しているし、新しい感触だった。
これが現代のロックンロールなのだ。
6th『Tranquility Base Hotel & Casino』
要するにセールスとか「ヒットメーカーになりたい!」とかそういうのはいいやって感じになったんだろうと思う作風である。
デモを聴かされたジェイミーは「どう受け止めていいか分からない」と言ったらしい。
ちなみにアレックスのルックスはオールバックロン毛の髭もじゃから坊主になった。
アレックスによるとほとんどの曲がギターではなくピアノを使って書かれたそう。
全体的にスペーシーで浮遊感があり、アメリカのクライム映画のサントラみたいだなと思った。
キャッチーさは薄く、ちょっと聴いて一緒に口ずさむようなタイプのアルバムではない。が、BGMとしてはクールだと思う。
今までのアルバムと雰囲気が違いすぎて扱いが難しいが、なんとなくたまに聴きたくなる味がある。
Alex Turnerという才能
日本で言えば吉田拓郎とか小山田壮平のように、喋る延長で歌うタイプのシンガーがいる。
アレックス・ターナーもそのタイプで、初期は短い音数の中にかなりの言葉数を詰め込むスタイルがバンドの疾走感と相まって個性となった。
が、その艶っぽい声と節回しはバンドの音が変わっても健在だった。
AMのようなシンプルで重いビートの上でも転がるように歌っていく。
これがアークティック・モンキーズというバンドの存在感に一役買っているのは言うまでもない。
新作では「俺はストロークスになりたかった」と歌う。初期はストロークスのカバーもしていた。
ガレージロックで音楽に目覚めた少年が才能を開花させ、多岐多様なジャンルの音を取り入れ唯一無二のソングライターになり、バンドの楽曲の幅広さを作ることになる。
アレックスの優れた点はその時々で違う毛色の曲を作りながらも、それが本人の色でまとめられているところである。
アレックス・ターナーとして矛盾がないし、過去の作品も今プレイすると違った雰囲気でまた面白いのだ。
本人は「昔の曲は俺が書いたという気がしない、他人の曲みたいだ」と言うけれど。
まとめ
デビューした頃、友人が「アークティック・モンキーズが一番好きなバンド」と言っているのを聞いて、「いやかっこいいけど、一番にくるか?」なんて思っていた。
が、もはやそう言われても何の違和感もないバンドに成長した。
石原さとみが一番好きだ、と言っていた別の友人は、太眉で芋っぽかった彼女が完全にあか抜けて綺麗どころの代表になった今、「俺は最初から分かっていたのさ」と言う。
これからもアークティック・モンキーズは最高を更新し続ける。